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名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)3393号 判決 1994年4月14日

原告

株式会社住総

右代表者代表取締役

山本弘

右代理人支配人

江﨑孝

右訴訟代理人弁護士

楠田堯爾

加藤知明

田中穰

魚住直人

被告

株式会社上野メタレックス

右代表者代表取締役

小田保中

右訴訟代理人弁護士

小川秀史郎

波多野健司

主文

名古屋地方裁判所平成三年(ケ)第九〇号不動産競売事件につき平成五年九月二四日作成された別紙配当表の「配当等」の欄のうち、被告への配当額二九三一万七三六三円とあるのを一五六五万九五七〇円に、原告への配当額一七四万八六七九円とあるのを一五四〇万六四七二円にそれぞれ変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一前提事実(争いのない事実の外、<書証番号略>に弁論の全趣旨を総合して認められる事実である。)

1  松本臣弘は、昭和五七年二月二〇日売買により、別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という)を取得した(同年六月二四日付で所有権移転登記を経由)が、その後本件建物について別紙抵当権等目録一記載のとおりの抵当権等の設定登記が経由されており、原告(変更前の商号は株式会社住宅総合センター)は第一順位の抵当権者、被告(変更前の商号は上野金属産業株式会社)は第三順位の根抵当権者であった。

2  昭和五七年当時、本件建物の敷地である別紙目録一記載の土地(以下「本件土地」という)は名古屋市猪子石土地区画整理組合の保留地であったため、松本臣弘は本件土地については直ちに所有権を取得することができず、昭和六一年五月三日換地処分がなされ、同年一一月一七日右土地区画整理組合の所有権保存登記が経由されたのち、昭和六一年五月三日売買により本件土地を取得した(昭和六二年一月二八日付で所有権移転登記が経由)が、その後本件土地について別紙抵当権等目録二記載のとおりの抵当権等の設定登記が経由されており、被告が第一順位の根抵当権者、原告は第二順位の抵当権者であった。

3  名古屋地方裁判所は、本件土地建物につき、不動産競売手続(平成三年(ケ)第九〇号不動産競売事件、以下「本件競売事件」という)を開始したが、本件土地建物の最低売却価額については、本件建物のため本件土地に法定地上権が成立することを前提として、本件土地の最低売却価額を一三〇六万円、本件建物の最低売却価額を一四三九万円と決定したうえ、本件土地建物を一括売却に付したところ、代金三二〇〇万円(手続費用九三万三九五八円)で売却され、平成五年五月二五日買受人羽田総業株式会社に対し所有権移転登記が経由された。

ところが、同裁判所は、同年六月一六日、本件土地に法定地上権が成立しないことを前提として、本件土地の個別価額を二七一六万円、本件建物の個別価額を一六二万円と変更した(以下「本件個別価額の変更」という)。

4  平成五年九月二四日の本件競売事件の配当期日において、同裁判所は、別紙配当表(以下「本件配当表」という)及び案分計算結果一覧表のとおり、本件個別価額の変更に基づき、本件土地建物の一括売却代金につき、本件土地の売却代金を二九三一万七三六三円、本件建物の売却代金を一七四万八六七九円と案分し、もって、本件土地につき第一順位の根抵当権者である被告(その債権額は元本五〇〇〇万円)への配当額を二九三一万七三六三円と、本件建物の第一順位の抵当権者である原告(その債権額は費用五万九八二三円、残元本一一八七万四五三五円、最後の二年分の損害金三四七万二一一四円)への配当額を一七四万八六七九円とする旨の本件配当表を作成した。

原告は、右配当期日において、本件配当表の被告への配当額二九三一万七三六三円のうち、後記原告の主張のとおり原告が配当を受けるべき一五四〇万六四七二円から原告が現に配当を受けた一七四万八六七九円を差し引いた一三六五万七七九三円につき異議を申し出た。

二争点

1  原告の主張

競売裁判所のなした本件個別価額の変更は、以下のとおりの理由で誤っている。

したがって、本件土地建物の個別の売却代金は、本件土地建物の従前の最低売却価額に基づいて案分すべきであり、これによれば、本件建物の売却代金は一六二八万五六二三円となるから、本件建物の第一順位の抵当権者である原告は、執行費用五万九八二三円及び債権額一五三四万六六四九円(残元本一一八七万四五三五円及び最後の二年分の損害金三四七万二一一四円)の合計一五四〇万六四七二円につき配当を受けるべきである。

(一) 不動産が一括売却された場合の配当に際しての、一括売却代金の各不動産への割付は、各不動産の最低売却価額に応じて案分して決められるべきであり、代金納付後に各不動産の価額ないし割付率を変更することは民事執行法八六条二項前段に違反し、許されない。

(二) 本件個別価額の変更は、法定地上権が不成立であることを前提としてなされたものであるが、本件においては次のとおり法定地上権が成立するものとして本件土地建物の価額を決定すべきであり、本件個別価額の変更は誤っている。

すなわち、原告が本件建物につき抵当権を設定した昭和五七年当時、本件土地も実質的には松本臣弘の所有であったが、名古屋市猪子石土地区画整理組合の保留地であったため、移転登記が不可能であったにすぎない。したがって、法定地上権成立の要件を充足していたというべきである。

また、被告が本件土地建物に根抵当権設定登記をなした昭和六二年当時には、本件土地建物は松本臣弘に属しており、法定地上権成立の要件を充足していたのであるから、何人による競売であるかを問わず、法定地上権を成立させることが民法三八八条の趣旨に沿うものである。

2  被告の主張

以下のとおり、本件個別価額の変更は何ら違法ではない。

(一) 民事執行法六〇条二項により、執行裁判所は必要があると認めるときは最低売却価額を変更できることとされているところ、本件において、法定地上権が成立する場合でないのに、法定地上権が成立することを前提に最低売却価額が決定されたのであるから、まさに変更の必要が生じたものというべきであり、本件個別価額の変更は何ら違法ではない。

(二) 本件において法定地上権の成立を認めることは、他の抵当権者、特に土地の抵当権者の利益を著しく害する一方で、建物に対する先順位抵当権者を不当に利するものであり、各抵当権者間の利益の調整・取引の安全の確保という観点からして、本件においては法定地上権は認められるべきではない。

第三当裁判所の判断

一前記前提事実によれば、本件土地建物は、本件競売事件において一括売却されたものであるが、本件建物の抵当権者は第一順位が原告、第二順位が株式会社小河商店、第三順位が被告であるのに対し、本件土地の抵当権者は第一順位が被告、第二順位が原告であって、抵当権者とその順位がそれぞれ異なっているため、配当にあたっては、各不動産ごとに売却代金の額を定める必要があり、右各売却代金の額は売却代金の総額を各不動産の最低売却価額に応じて案分して得た額とされているところ、本件土地とその地上に存する本件建物の最低売却価額を定めるには、その前提として、本件建物又は本件土地のみが売却された場合には、本件建物のため本件土地につき法定地上権が成立するか否かが問題となる。

ところで、建物について一番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合でも、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に、建物及び土地に対し共同担保として後順位抵当権が設定され、その後に抵当権が実行された場合には、地上建物のため土地につき法定地上権が成立すると解するのが相当である。なぜならば、右のように競合する抵当権の一つにより競売手続が進められ競落されると、すべての抵当権は消滅すべき運命にあるのであるから、抵当権の一つが法定地上権の要件を具備する限り、地上建物のために法定地上権が成立するものと解するべきであり、かつ、このように解したとしても、建物について一番抵当権者が把握していた担保価値を損なわせることにはならず、かえって、抵当権設定当時把握していた担保価値以上の価値を把握することになるものであるし、他方、後順位抵当権者についても、後順位抵当権設定当時には法定地上権の要件が充足されていたのであるから、法定地上権の成立を十分に予期できたもので、その意思に反するとも、その利益を害するともいえないからである(最高裁昭和五三年九月二九日判決、大審院昭和一四年七月二六日判決参照)。

そうすると、本件において、前記前提事実によれば、本件建物に原告の抵当権が設定された当時には、本件土地と同地上の本件建物はその所有者を異にしていたが、その後本件土地建物に被告が根抵当権を設定した当時には、本件土地建物は同一人の所有に帰しており、法定地上権成立の要件を具備していたのであるから、法定地上権の成立を認めるべき場合に当たるというべきである(法定地上権の成立を認めると、後順位抵当権者、特に土地の抵当権者の利益を著しく害する一方で、建物に対する先順位抵当権者を不当に利することとなる旨の被告の主張が採用できないことは以上に述べたところから明らかである)。

したがって、法定地上権が成立するものとして決定された本件土地建物の従前の最低売却価額は相当であり、法定地上権が成立しないことを前提としてなされた本件個別価額の変更は、その余の点につき判断するまでもなく、誤りであることが明らかである。

二以上によれば、本件配当にあたっては、本件土地建物の各売却代金は従前の最低売却価額に基づいて算定すべきであるところ、本件土地建物の売却代金三二〇〇万円から手続費用九三万三九五八円を差し引いた三一〇六万六〇四二円を、本件土地の従前の最低売却価額一三〇六万円と本件建物の従前の最低売却価額一四三九万円で案分すると、本件土地の売却代金一四七八万〇四一九円、本件建物の売却代金は一六二八万五六二三円となる。そうすると、本件建物の第一順位の抵当権者である原告は、執行費用五万九八二三円、残元本一一八七万四五三五円、最後の二年分の損害金三四七万二一一四円の合計一五四〇万六四七二円につき配当を受けることができるというべきである。

三よって、原告の本訴請求は理由がある。

(裁判官筏津順子)

別紙<省略>

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